店の売上を伸ばす手として、テイクアウトや物販は真っ先に候補に挙がります。焼き菓子を店頭に並べる、自家製ドレッシングを瓶で売る、冷凍の総菜を通販に出す。
ここで多くの店がつまずきます。飲食店営業許可だけでできる範囲と、別の許可が必要になる範囲の線が、見た目では分からないからです。
「テイクアウトを始めるなら保健所に相談を」としか書いていない記事が多いのですが、相談の前に、自分がどちら側にいるかは整理できます。この記事では大阪市を前提に、その境界線を引きます。2026年9月時点の情報です。
境界は「注文を受けてから作るか」「作り置きを並べるか」
まず、いちばん大きな分かれ目です。
| やること | 必要な許可 |
|---|---|
| 客の注文を受けて、その場で調理して詰めて渡す | 飲食店営業許可の範囲内 |
| あらかじめ作って包装し、陳列して売る | 製造業の許可が別に必要 |
| 他の店や小売店に卸す | 製造業の許可が別に必要 |
| インターネットや電話で通信販売する | 製造業の許可が別に必要 |
弁当を注文ごとに詰めて渡すのは、飲食店営業の延長です。一方、朝のうちに焼いた焼き菓子を袋詰めしてレジ横に並べた時点で、それは製造と販売になります。
「持ち帰り」という日本語は同じでも、法律上はまったく別の行為です。
基本の許可の位置づけは 食品衛生法に基づく営業許可申請(飲食店営業) にまとめています。
どの製造業許可に当たるかは、作るものごとに決まる
製造業の許可は「食品製造業」という1つの箱ではありません。作るものごとに業種が分かれています。
| 作るもの | 該当する営業許可 |
|---|---|
| クッキー、カヌレ、ケーキ、和菓子、パン、あん類 | 菓子製造業 |
| 煮物、揚げ物、サラダ、弁当のおかず等のそうざい | そうざい製造業 |
| アイスクリーム、ジェラート、ソフトクリーム | アイスクリーム類製造業 |
| ハム、ソーセージ、ベーコン | 食肉製品製造業 |
| 瓶詰・缶詰にした食品 | 該当する製造業(内容により異なる) |
なお、パンとあん類は、法令上はっきり菓子製造業に含まれます。食品衛生法施行令第35条第11号が「菓子(パン及びあん類を含む。)を製造する営業」と定めているためです。
複数を扱うなら、複数の許可が必要になることがあります。焼き菓子と総菜の両方を売るつもりなら、菓子製造業とそうざい製造業の2つが視野に入ります。
それぞれの手続きは 菓子製造業許可 と その他食品製造・販売関連の営業許可(そうざい・アイス等) にまとめています。
大阪市の手数料
大阪市の場合、新規申請の手数料は次のとおりです(2026年9月時点)。
| 営業許可 | 新規 | 継続(更新) |
|---|---|---|
| 飲食店営業 | 16,000円 | 12,800円 |
| 菓子製造業 | 14,000円 | 11,200円 |
| そうざい製造業 | 21,000円 | 16,800円 |
| アイスクリーム類製造業 | 14,000円 | 11,200円 |
許可ごとに、それぞれかかります。飲食店営業に菓子製造業を足すなら、更新のたびに両方の手数料と更新作業が発生することになります。
申請先は、店舗の所在地を管轄する保健所です。大阪市の場合は、各生活衛生監視事務所(北部・西部・東部・南東部・南西部)が窓口になります。
いちばんの関門は、厨房の区画
手数料よりも重いのが、施設の基準です。
製造業の許可は、飲食店営業とは別の施設基準で審査されます。同じ厨房で両方をやろうとすると、次の点が問題になります。
- 製造に使う区画が、客に提供する調理の区画と分けられているか
- 手洗い設備がそれぞれに確保されているか
- 包装作業をする場所が確保できているか
- 原材料・製品の保管スペースが区分できているか
「同じ厨房で作るだけだから大丈夫」とはなりません。区画のために間仕切りを入れることになれば、内装工事のやり直しです。
設計段階で決めておく
将来テイクアウトや物販をやるつもりが少しでもあるなら、内装設計の段階で保健所に相談してください。
開業後に区画を切ろうとすると、営業を止めての工事になります。
保健所の検査で落ちやすい箇所は 大阪市の飲食店営業許可、保健所の検査で落ちるのはどこか にまとめました。
包装して売るなら、食品表示が要る
許可と同じくらい見落とされるのが、これです。
包装して陳列販売する食品には、食品表示が必要です。ラベルに書く項目は、おおむね次のとおりです。
- 名称
- 原材料名
- 添加物
- 内容量
- 消費期限または賞味期限
- 保存方法
- 製造者(氏名・住所)
- アレルゲン
「手作りだから」は理由になりません。とくに期限表示は、根拠を持って決める必要があります。何日もつのかを、勘で書くことはできません。
対面でその場で包む場合など、表示の扱いが変わるケースもあります。ラベルのひな形を作る前に、保健所で確認してください。
冷凍して売る、通販に出すと、さらに増える
冷凍総菜の自動販売機や、通販は、いま多くの店が検討している手です。ここは条件が積み上がります。
| やること | 増える論点 |
|---|---|
| 冷凍して販売する | 冷凍設備・保管の基準、表示(冷凍食品の表示) |
| 自動販売機で売る | 設置場所の扱い、営業許可の範囲 |
| 通販に出す | 製造業の許可が前提。表示・配送中の温度管理 |
| 他店に卸す | 製造業の許可が前提。取引先からも許可証の提示を求められる |
通販は「ネットに出すだけ」ではありません。販売の形が増えるほど、必要な許可と表示の条件も増えます。
なお、HACCPに基づく衛生管理を行っている飲食店向けに、複合型の許可業種が設けられています。
| 業種 | 根拠 |
|---|---|
| 複合型そうざい製造業 | 食品衛生法施行令第35条第26号 |
| 複合型冷凍食品製造業 | 食品衛生法施行令第35条第28号 |
HACCPに基づく衛生管理(重要工程管理)を実施していることが要件です。大阪市の手数料は、複合型そうざい製造業で新規21,000円/更新16,800円です。
自店の設備で取れる可能性があるので、最初から別の製造所を借りる前に、保健所に確認する価値があります。
酒を「未開栓のまま」売るなら、税務署の免許が要る
食品衛生法とは別の話になりますが、同時に検討されることが多いので触れておきます。
店内でグラスに注いで出すのは、飲食店営業の範囲です。しかし、栓を開けていない瓶や缶のまま販売するなら、酒類の小売になります。
| やること | 必要な免許 | 窓口 |
|---|---|---|
| 未開栓の酒を店頭で持ち帰り販売 | 一般酒類小売業免許 | 販売場を所轄する税務署 |
| 未開栓の酒を通信販売 | 通信販売酒類小売業免許 | 同上 |
免許そのものに申請手数料はかかりませんが、登録免許税が1件につき30,000円かかります。一般と通信販売の両方を取るなら、それぞれに必要です。
審査には原則として2か月程度を見込みます。年末の繁忙期に間に合わせたいなら、逆算して動く必要があります。手続きの概要は 酒類小売業免許 にまとめています。
進め方の順番
整理すると、こうなります。
“` ① 何を・どう売るかを決める(作り置きか/包装するか/卸すか/通販か) ↓ ② 必要な製造業の許可を特定する ↓ ③ 図面を持って保健所(生活衛生監視事務所)へ事前相談 ↓ ④ 区画・設備の工事(必要な場合) ↓ ⑤ 営業許可申請 → 施設調査 ↓ ⑥ 食品表示の準備/(酒を売るなら)税務署へ免許申請 “`
③を飛ばして工事をした場合の手戻りが、いちばん高くつきます。
よくある質問
Q. 注文を受けてから弁当を詰めるだけなら、許可は要りませんか
飲食店営業許可の範囲内で対応できると整理されています。ただし、作り置きを並べて売る形になった時点で扱いが変わります。運用が変わるときは、その都度確認してください。
Q. 菓子製造業の許可があれば、パンも作れますか
法令上、パンの製造は菓子製造業に含まれると明記されています。食品衛生法施行令第35条第11号が「菓子(パン及びあん類を含む。)を製造する営業」と定めています。パン専用の許可業種があるわけではありません。
Q. イベント出店で売るときも、同じ許可が要りますか
臨時の出店には別の取扱い(臨時営業許可など)があります。常設店舗の許可とは別枠で考えてください。
Q. 許可は2つ取ると、更新も2回分ですか
はい。営業許可は許可ごとに有効期間があり、それぞれ更新が必要です。大阪市の飲食店営業は原則5年です。手数料も許可ごとにかかります。
Q. 通販を始めるのに、ネットショップの開設と許可はどちらが先ですか
許可が先です。製造業の許可がないまま通信販売を始めると、無許可営業になります。サイトの構築と並行して、許可の準備を進めてください。決済手段の整備については 飲食店のキャッシュレス決済導入 も参考になります。
この記事で扱った手続き
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まとめ
- 境界は 「注文を受けて作る」か「作り置きを包装して並べる」か。後者は製造業の許可が別に要る
- 製造業の許可は作るものごとに業種が分かれる(菓子/そうざい/アイスクリーム類/食肉製品)。パン・あん類は菓子製造業に含まれる
- HACCPに基づく衛生管理をしているなら、複合型そうざい製造業・複合型冷凍食品製造業という選択肢がある
- 大阪市の新規手数料は 菓子14,000円・そうざい21,000円。許可ごとにかかり、更新も別
- いちばんの関門は厨房の区画と専用設備。内装設計の段階で保健所に相談する
- 包装して売るなら食品表示が要る。期限表示は根拠が必要
- 未開栓の酒を売るなら税務署の酒類小売業免許。登録免許税はそれぞれ30,000円、審査は原則2か月
この記事は制度の内容を整理したものです。自店の計画にどの許可が必要かは、店舗所在地を管轄する保健所(大阪市は各生活衛生監視事務所)にご確認ください。


