飲食店を開くとき、届け出る先は1つではありません。保健所・消防署・警察署・税務署と、それぞれ別の窓口です。
そして厄介なのは、順番を間違えると後戻りできないことです。とくに物件を契約したあとで「この物件では希望する営業ができない」と分かるケースは、決して珍しくありません。
この記事では、大阪市で飲食店を開業するときの手続きを、時系列で整理します。手数料・標準処理期間・窓口は、大阪市および大阪府が公表している値を使っています。
大阪市で飲食店を開業するまでの流れ
| やること | 窓口 | タイミング | |
|---|---|---|---|
| 1 | 業態と営業時間を決める | — | 物件探しの前 |
| 2 | 物件を決める(用途地域・設備を確認) | — | — |
| 3 | 食品衛生責任者を確保する | 大阪市食品衛生協会 等 | 物件探しと並行 |
| 4 | 用途変更の確認申請(200㎡超の場合) | 大阪市 建築確認課 等 | 着工前 |
| 5 | 保健所へ事前相談(図面を持参) | 各生活衛生監視事務所 | 着工前 |
| 6 | 防火対象物使用開始届出 | 所轄消防署 | 使用開始の7日前まで |
| 7 | 防火管理者を選任(収容30人以上) | 所轄消防署 | 内装工事前 |
| 8 | 飲食店営業許可を申請 | 各生活衛生監視事務所 | オープンの2〜3週間前 |
| 9 | 深夜にお酒を出すなら届出 | 公安委員会(所轄警察署) | 営業開始の10日前まで |
| 10 | 開業届・社会保険・労働保険 | 税務署・年金事務所・労基署 | 開業後 |
このうち見落とされやすいのは5と6です。どちらも「工事の前」に動くもので、後回しにすると追加工事や開店延期につながります。
物件を決める前に確認する3つ
物件は、いちばん高い買い物です。そしていちばん取り返しがつかないものでもあります。契約前に、少なくとも次の3つは確認してください。
① 営業できる地域か
深夜0時以降にお酒を提供する業態は、都道府県の条例で禁止されている区域があります(風営法33条4項)。大阪府では住居系の用途地域が原則禁止です(第一種・第二種住居地域と準住居地域には公安委員会規則による例外あり)。
接待をともなう営業(風俗営業許可)はさらに厳しく、学校・病院・図書館などからの距離制限がかかります。物件を見ただけでは分かりません。
② 給排水・グリストラップ・換気
保健所の基準を満たす設備が入るか。既存設備を流用できるか。ここは図面の段階で保健所に見てもらえます。
③ 貸主が営業形態を許容するか
「飲食可」でも、深夜営業や特定の業態は不可という契約は珍しくありません。
業態と営業時間で、手続きの数が変わる
手続きの分岐は、ほぼここで決まります。
| 業態・営業時間 | 追加で必要になるもの | 手数料 |
|---|---|---|
| 深夜0時までの飲食 | 飲食店営業許可のみ | 16,000円 |
| 収容人員30人以上 | + 防火管理者の選任・消防計画の届出 | 無料(講習料は別) |
| 深夜0時以降にお酒を提供 | + 深夜における酒類提供飲食店営業開始届出 | 無料 |
| 客に接待をともなう | + 風俗営業許可(審査55日) | 24,000円 |
| 店内で作った菓子を持ち帰り販売 | + 菓子製造業許可 | 14,000円 |
「とりあえず物件を探して、あとで業態を考える」という順番だと、物件が使えない可能性が出てきます。
食品衛生責任者は、物件探しと並行して動く
各店舗に1人、食品衛生責任者を置く必要があります(食品衛生法51条1項の委任を受けた食品衛生法施行規則66条の2・別表第17第1号イ)。
調理師・栄養士・製菓衛生師などの資格があれば、講習は免除されます。まず社内に該当者がいないか確認してください。それだけで1つ手間が消えます。
講習の申し込み方と、予約が取れないときの選び方(講習会・eラーニング・資格による免除)は、飲食店の食品衛生責任者、講習が取れないときどうする?にまとめています。
資格がない場合は、大阪市食品衛生協会が実施する養成講習会を受講します。受講料は約10,500円です。
⚠️ 講習会は開催日が決まっていて、申込みが集中します。「来週受けよう」と思っても次が数週間先ということが起こります。物件を探し始めた段階で日程を確認してください。
内装工事の前に、保健所と消防署へ
保健所への事前相談
大阪市では、各生活衛生監視事務所(北部・西部・東部・南東部・南西部)が窓口です。手数料は無料で、店舗の平面図・厨房設計図を持参して相談します。
保健所が見るのは設備の配置です。シンクの数、手洗い設備、冷蔵設備、床・壁の材質など、基準が細かく決まっています。
内装工事が終わってから相談に行くと、やり直しになります。図面の段階で持って行けば、その場で指摘をもらえます。これは法令上の申請手続きではなく行政指導ですが、実務上いちばん効きます。
防火対象物使用開始届出(7日前まで)
消防署への届出です。大阪市では使用を開始する日の7日前までに提出します(大阪市火災予防条例 第56条)。飲食店は消防法施行令別表第1の(3)項イにあたります。
様式は第3号様式「防火対象物使用開始(変更)届出書」(2枚組)、手数料は無料です。
⚠️ 「7日前に出せばいい」わけではありません。内装が消防の基準を満たしていなければ、そこから直すことになります。完成してから指摘を受けると追加工事です。着工前に相談しておくのが定石です。
200㎡を超えるなら用途変更の確認申請
既存建物の用途を変更して飲食店にする場合、その部分の床面積が200㎡を超えるなら建築基準法の確認申請が必要です(建築基準法87条1項)。法定の審査期限は35日以内。床面積に応じた手数料がかかります。
200㎡以下なら確認申請は不要ですが、排煙・採光・防火区画などの基準に適合する義務は残ります。
飲食店営業許可の申請
大阪市の案内では、オープン予定日の2〜3週間前に手続きします。申請後、担当者が現地を確認します。
| 内容 | |
|---|---|
| 根拠法 | 食品衛生法 第54条・第55条第1項 |
| 申請先 | 大阪市 各生活衛生監視事務所 |
| 手数料 | 新規 16,000円 / 更新 12,800円 |
| タイミング | オープン予定日の2〜3週間前 |
| オンライン申請 | 食品衛生申請等システムで可能(オンライン決済も可) |
オンラインで申請できます。厚生労働省の食品衛生申請等システム(i2fas.mhlw.go.jp)から手続きできます。窓口は現金納付ですが、電子申請ならオンライン決済も使えます。
⚠️ このシステムは旧URL(ifas.mhlw.go.jp)から移転しています。古い解説記事のリンクは切れていることがあります。
許可が下りる前に営業を始めることはできません。オープン日を先に決めて告知してしまうと、ここで詰みます。
深夜にお酒を出すなら、許可が出てからさらに10日
深夜0時以降にお酒を提供する営業は、公安委員会への届出が必要です(風営法33条1項。実務上は所轄警察署を経由)。期限は営業開始日の10日前まで(風営法施行規則103条)。手数料は無料です。
⚠️ ここがスケジュールの急所です。この届出には営業許可証の写しを添付します。つまり保健所の営業許可が出てからでないと出せません。
「営業許可 → 10日」が最短で、内装が終わっていてもこの期間は動きません。深夜営業を予定しているなら、この10日を工程表に入れてください。
開業してからの手続き
開店すれば終わりではありません。次の届出が残っています。
| 届出 | 窓口 | 期限の目安 |
|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | 所轄税務署 | 開業から1か月以内 |
| 法人設立届出書(法人の場合) | 税務署・府税事務所・市税事務所 | 設立後すみやかに |
| 労働保険 保険関係成立届 | 所轄労働基準監督署 | 人を雇った日から10日以内 |
| 雇用保険 適用事業所設置届 | ハローワーク | 同上 |
| 健康保険・厚生年金 新規適用届 | 年金事務所 | 該当したとき |
BGMを流すなら、著作権の利用許諾契約も必要です。JASRAC等との契約で、500㎡以下の店舗なら年額6,000円程度から。見落とされやすい割に、後から遡って請求されます。
全体でどのくらいかかるか
物件が決まってから開業まで、準備期間は2〜3か月を見ておくと安全です。
| 工程 | 目安 |
|---|---|
| 食品衛生責任者の講習 | 開催日次第(数週間先のことも) |
| 保健所への事前相談 | 随時・即日 |
| 内装工事 | 物件による |
| 防火対象物使用開始届出 | 使用開始の7日前まで |
| 飲食店営業許可 | オープンの2〜3週間前に申請 |
| 深夜酒類の届出 | 営業許可が出てから10日 |
動かせないのは、保健所の事前相談から許可までと、内装工事の期間です。逆に、食品衛生責任者の講習や書類の準備は、物件探しと並行して進められます。
よくある質問
Q. 物件を契約する前に、営業できるか確認できますか?
はい。用途地域は自治体の窓口や公開されている都市計画図で確認できます。設備については、図面を持って保健所に事前相談できます。契約前に確認するのが原則です。
Q. 居抜き物件なら手続きは簡単になりますか?
設備が流用できれば工事は短くなりますが、営業許可は前の店から引き継げません。新たに取り直しになります。また、前店舗の設備が現在の基準を満たしているとは限りません。
Q. 食品衛生責任者は、オーナー本人でなければいけませんか?
施設ごとに1名以上いればよく、従業員が資格を持っていても構いません。
Q. 収容人員30人は、席数のことですか?
いいえ。条文上は「当該防火対象物に出入し、勤務し、又は居住する者の数」とされており、客席だけでなく従業員も含まれます。席数だけで判断すると見誤ります。
Q. 開業してから業態を変える場合は?
変更内容によって、届出や許可の取り直しが必要になります。深夜営業を後から始める場合も、あらためて届出が必要です。
まとめ
- 手続きは物件を決める前と決めたあとで分かれる
- 前:業態・営業時間を決め、用途地域と設備を確認する
- あと:保健所への事前相談 → 工事 → 消防への届出(7日前)→ 営業許可(2〜3週間前)→ 必要なら深夜の届出
- 深夜営業は、営業許可が出てからさらに10日かかる
- 飲食店営業許可は新規16,000円。オンライン申請もできる
- いちばん多い失敗は、物件を先に契約してしまうこと
※ 本記事は制度の情報提供を目的としたものです。金額・期間・要件は改正されます。申請前に必ず大阪市および所管の窓口でご確認ください。手続きの代行・個別のご相談は承っておりません。
この記事で出てくる手続き
根拠法・申請先・標準処理期間・手数料・様式を、手続きごとに1ページで整理しています。


