飲食店を開くとき、居抜き物件は魅力的です。厨房設備がそのまま残っていれば、内装工事の費用と期間を大きく削れます。
ただし、居抜きには普通の賃貸借にはない契約が絡みます。造作譲渡契約です。
そして、ここでのトラブルは金額が大きくなりがちです。
造作とは何か
造作とは、建物に取り付けられた設備や内装のことです。厨房機器、空調、カウンター、内装の仕上げなどが該当します。
建物そのものは貸主のもの、造作は前の借主のもの——これが基本の構図です。
だから居抜きでは、貸主から建物を借りる契約とは別に、前の借主から造作を買う契約が発生します。この2つは別の契約で、相手方も違います。
3つの契約が同時に動く
| 契約 | 相手方 | 内容 |
|---|---|---|
| 賃貸借契約 | 貸主(オーナー) | 建物を借りる |
| 造作譲渡契約 | 前の借主 | 設備・内装を買う |
| 解約・原状回復の合意 | 貸主 ⇔ 前の借主 | 前の契約を終わらせる |
この3つが噛み合わないと、話が止まります。
たとえば、前の借主と造作の金額で合意しても、貸主が新しい借主として自分を承諾しなければ、そもそも入居できません。
逆に、賃貸借の交渉が進んでいても、造作の金額で折り合わなければ、設備を全部撤去された状態で引き渡されることになります。
契約前に確認する5項目
1. 譲渡の対象に何が含まれるか
「厨房設備一式」という書き方は危険です。何が入って、何が入らないのかを、品目で書き出してください。
冷蔵庫は入っているか。食器は。看板は。エアコンは。
引き渡し当日に「これは持っていきます」と言われても、リストがなければ争えません。
2. リース中の機器が混ざっていないか
これがいちばん多いトラブルです。
厨房機器はリースで導入されていることがあります。リース中の機器は前の借主のものではありません。所有権はリース会社にあります。
売る権利がないものを買っても、引き渡しを受けられません。
リース契約書の有無を確認してください。
3. 設備が動くかどうか
見た目では分かりません。
厨房機器は、通電して動かしてみないと状態が分かりません。空調も同じです。
引き渡し後に故障が判明したとき、誰が直すのか。契約書に書いていなければ、買った側が負担することになりがちです。
「現状有姿」と書かれていたら、故障のリスクは買主が負うという意味です。
4. 原状回復義務がどうなるか
これが金額としてはいちばん大きい論点です。
店舗の賃貸借では、退去時にスケルトン(内装を全部撤去した状態)で返す特約が付いていることがあります。
居抜きで入るということは、前の借主が撤去しなかった造作を引き継ぐということです。
つまり、自分が退去するときに、前の借主の分まで撤去費用を負担する可能性があります。
自分の退去時に何をどこまで戻すのかを、賃貸借契約書で必ず確認してください。
5. 造作買取請求権が排除されていないか
退去するとき、自分が入れた造作を貸主に買い取ってもらえる権利があります(借地借家法33条1項)。ただし貸主の同意を得て付けたものに限られます。
そして実務上もっと重要なのは、この権利は特約で排除できることです。
店舗の賃貸借契約では、排除する特約が置かれているのが一般的です。排除されていれば、自分が入れた造作は退去時に買い取ってもらえず、撤去して返すことになります。
契約書に「造作買取請求権を放棄する」旨の条項がないか、必ず確認してください。
費用の扱い
造作譲渡の代金は、開業資金として無視できない金額になります。
税務上は、譲り受けた設備を資産として計上し、減価償却していくことになります。消費税の扱いも、譲渡人が課税事業者かどうかで変わります。
「内装工事費より安いから得」という判断だけで決めないほうがいい理由が、ここにもあります。
よくある質問
Q. 造作譲渡の金額に相場はありますか?
明確な相場はありません。前の借主が投じた金額、残存価値、そして「早く手放したいかどうか」で決まります。閉店を急いでいる場合は下がることがあります。
Q. 営業許可は引き継げますか?
「造作だけを買う」のか「営業ごと引き継ぐ」のかで変わります。
設備・内装だけを買う造作譲渡では、飲食店営業許可は引き継げません。あらためて取り直しになります。
一方、営業そのものを譲り受ける(事業譲渡)場合は、許可営業者の地位を承継できます。
前条第一項の許可を受けた者…が当該営業を譲渡し、又は許可営業者について相続、合併若しくは分割…があつたときは、当該営業を譲り受けた者…は、許可営業者の地位を承継する。(食品衛生法56条1項)
承継した側は、遅滞なくその旨を届け出ます(同条2項)。
つまり、契約の組み立て方で結果が変わります。 造作の売買契約にするか、事業譲渡契約にするか——ここは値段だけでなく、許可の承継まで見て決めるべきところです。
⚠️ ただし、承継できるのは許可であって、設備が現在の基準を満たしているかは別の話です。
Q. 造作譲渡契約は、不動産会社が作ってくれますか?
賃貸借契約は仲介会社が扱いますが、造作譲渡契約は当事者間の契約です。取り扱いは会社によって異なります。誰が何を作るのかを、早い段階で確認しておくべきです。
まとめ
居抜き物件は、費用と期間を削れます。ただし契約が3つ同時に動くため、確認する箇所も増えます。
- 譲渡の対象を品目で書き出す
- リース中の機器が混ざっていないか
- 設備が実際に動くか
- 退去時の原状回復をどこまで負うか
- 造作買取請求権が排除されていないか
このうち4番目——原状回復——が、いちばん後から効いてきます。入るときの安さと、出るときの負担は、別の話です。
※ 本記事は制度と実務の情報提供を目的としたものです。条文は e-Gov 法令検索で確認しています。個別の契約については、契約書の内容をご確認ください。
この記事で出てくる手続き
根拠法・申請先・標準処理期間・手数料・様式を、手続きごとに1ページで整理しています。


