建設業許可を取るとき、多くの会社が最初に引っかかるのが、経営業務の管理に関する要件です。現場では「経管(けいかん)」と呼ばれます。
そして、つまずくのは要件を満たしていないからではありません。満たしているのに、証明できないからです。
許可の要件
建設業法第7条は、許可の基準を次のように定めています。
| # | 要件 | 根拠 |
|---|---|---|
| 1 | 経営業務の管理を適正に行うに足りる能力 | 建設業法7条1号 → 施行規則7条 |
| 2 | 営業所ごとに営業所技術者を専任で置くこと | 建設業法7条2号 |
| 3 | 請負契約に関して不正・不誠実な行為をするおそれが明らかでないこと | 建設業法7条3号 |
| 4 | 請負契約を履行するに足りる財産的基礎・金銭的信用 | 建設業法7条4号 |
| 5 | 社会保険への加入(健康保険・厚生年金・雇用保険の届出) | 施行規則7条2号 |
5を見落としがちです。社会保険の届出は、いまや許可の要件そのものです(施行規則7条2号イ〜ハ)。未加入のままでは許可が下りません。
条文に「経営業務の管理責任者」という言葉はありません
条文を読むと、意外なことに気づきます。
建設業に係る経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有するものとして国土交通省令で定める基準に適合する者であること。(建設業法7条1号)
つまり、個人に着目した要件から、会社としての体制を見る要件に整理されています(令和2年10月1日施行)。実体的な中身は、建設業法施行規則7条に書かれています。
この記事で「経管」と呼んでいるのは、この施行規則7条1号の要件のことです。
なお、上の表で「営業所技術者」としたのは、従来「専任技術者」と呼ばれていたものです。令和6年の建設業法改正で条文上の用語が変わりました。
経管の要件は2通りあります
施行規則7条1号は、イ(単独型)とロ(補佐体制型)の2つの道を用意しています。
イ|常勤役員等が1人で満たす
常勤役員等のうち1人が、次のいずれかに該当すること。
| 内容 | 年数 | |
|---|---|---|
| (1) | 建設業に関し、経営業務の管理責任者としての経験 | 5年以上 |
| (2) | 建設業に関し、経営業務の管理責任者に準ずる地位(経営業務を執行する権限の委任を受けた者に限る)として経営業務を管理した経験 | 5年以上 |
| (3) | 建設業に関し、準ずる地位にある者として経営業務の管理責任者を補佐する業務に従事した経験 | 6年以上 |
(2)の括弧書きが重要です。単に役職があっただけでは足りず、経営業務を執行する権限の委任を受けていたことが求められます。
ロ|常勤役員等+補佐者3人で満たす
常勤役員等が次のいずれかに該当し、かつ、その常勤役員等を直接に補佐する者として、財務管理・労務管理・業務運営の業務経験を持つ者をそれぞれ置くこと。
| 常勤役員等に求められる経験 | |
|---|---|
| (1) | 建設業に関し2年以上役員等の経験があり、かつ5年以上役員等または役員等に次ぐ職制上の地位(財務管理・労務管理・業務運営を担当)の経験 |
| (2) | 5年以上役員等の経験があり、かつ建設業に関し2年以上役員等の経験 |
(2)は「建設業以外での役員経験」を活かせる道です。他業種で5年以上役員をしていた人が、建設業で2年以上役員を務めれば、補佐体制を組むことで要件を満たせます。
「5年の経験がないから無理」と諦める前に、ロの道を確認してください。
証明でつまずく3つ
ここからが本題です。要件を満たしていても、書類がなければ通りません。
1. 個人事業の期間を証明できない
法人成りした会社でよくあります。個人事業主として建設業をやっていた期間も経験年数に算入できますが、それを示す資料が要ります。
確定申告書の控えが残っていない——これで止まるケースが少なくありません。
国土交通省の「建設業許可事務ガイドライン」では、建設業の実績を示す資料として次のものが挙げられています。
- 工事請負契約書
- 注文書・請書
- 請求書および入金通帳
- 確定申告書(控)
- 許可通知書(控)/決算変更届(副本)
このうち個人事業時代を証明できるのは、実質的に確定申告書と契約書類だけです。
2. 工事の実績を示す書類がない
その期間に建設業を営んでいたことを示す資料——工事請負契約書、注文書、請求書などが求められます。認められる資料の範囲は自治体によって異なります。
口頭で受注していた、書類を残していない——年数分をさかのぼって集めるのは簡単ではありません。
3. 前の会社が協力してくれない
これがいちばん厄介です。
以前勤めていた会社での経験を使う場合、その会社に書類を出してもらう必要が生じることがあります。円満に辞めていなければ協力を得られませんし、会社が既に無くなっていることもあります。
常勤であること
要件を満たす人は、その会社に常勤している必要があります。
名前だけ借りることはできません。次のような資料で実態が確認されます。
- 住民票の写し(通勤できる距離かを見ます)
- 健康保険被保険者証の写し(事業所名の記載があるもの)
- 住民税特別徴収税額通知書
- 確定申告書
他社の役員を兼ねている場合は、そこが問題になります。他社で常勤役員やフルタイム勤務をしていれば、要件を満たしません。
兼務する場合は、他社での非常勤を証明する書類(非常勤証明書・取締役会議事録・他社が休眠状態であることの疎明など)で、申請する会社での常勤性が損なわれていないことを示す必要があります。
自治体で運用が違います
建設業許可は、都道府県知事の許可(複数の都道府県に営業所がある場合は国土交通大臣の許可)です。
そして、求められる資料や運用の細かさは、自治体によって異なります。
「他県ではこれで通った」が通用しないことがあります。申請先の手引きを必ず確認してください。
よくある質問
Q. 経管と営業所技術者を同じ人が兼ねられますか?
要件をどちらも満たしていれば、同一人が兼ねられるとされています。ただし営業所の常勤性など、個別の確認が必要です。詳細は許可権者の手引きをご確認ください。
Q. 要件を満たす人がいなくなったらどうなりますか?
要件を欠くことになります。速やかに後任を立てる必要があります。許可を取ったあとも、要件は満たし続けなければなりません。
Q. 経験年数が足りない場合、待つしかありませんか?
いいえ。施行規則7条1号ロの補佐体制を組むことで要件を満たせる場合があります。とくに、建設業以外での役員経験が5年以上ある方は、建設業での役員経験が2年以上あれば道があります。
まとめ
建設業許可の経営業務に関する要件は、個人の経験を見る形から、会社の体制を見る形に整理されています。
- イ(単独型)=常勤役員等1人が5年(または6年)の経験
- ロ(補佐体制型)=常勤役員等+財務・労務・業務運営の補佐者3人
- 社会保険の届出も許可の要件(施行規則7条2号)
そして、つまずくのは要件そのものではなく証明です。
- 個人事業時代の確定申告書
- 工事の契約書・請求書
- 前職の会社からの書類
これらは、必要になってから集めようとすると間に合わないことがあります。将来許可を取る可能性があるなら、書類を残しておくことがいちばん確実な準備です。
※ 本記事は制度の情報提供を目的としたものです。条文は e-Gov 法令検索、資料の一覧は国土交通省「建設業許可事務ガイドライン」で確認しています。個別の申請については、許可権者の手引きをご確認ください。
この記事で出てくる手続き
根拠法・申請先・標準処理期間・手数料・様式を、手続きごとに1ページで整理しています。


