建設業許可でいちばん多くの会社がつまずくのは、要件そのものではありません。要件は満たしているのに、それを証明できないところです。
なかでも難所が、営業所の専任技術者を 実務経験10年 で立てるケースです。資格者がいない会社にとっては唯一の道ですが、必要なのは「10年やってきた」という事実ではなく、10年分の紙です。
この記事では、大阪府知事許可を前提に、実務経験10年をどう証明するのか、どこで不可判定になるのかを整理します。2026年9月時点の情報です。
専任技術者は「資格」か「実務経験」のどちらかで立てる
建設業許可を取るには、営業所ごとに専任技術者を置く必要があります(建設業法第7条第2号)。実務経験10年で立てる場合の根拠は、同号ロです。立て方は大きく3つです。
| 立て方 | 内容 | 証明のしやすさ |
|---|---|---|
| 国家資格 | 施工管理技士・技術士・電気工事士 など | 合格証明書の写しだけ。いちばん楽 |
| 指定学科+実務経験 | 高卒5年/大卒・高専卒3年 | 卒業証明書+短縮された年数の実務経験 |
| 実務経験10年 | 資格も指定学科もない場合 | 10年分の裏付けが要る。いちばん重い |
資格がある人を採用できるなら、その方が早いのは間違いありません。ただ、長く現場を回してきた社員がいる会社ほど、資格ではなく経験で立てたいという事情があります。
制度上の位置づけは 常勤役員等(経営業務管理責任者等)及び営業所専任技術者の設置 にまとめています。
10年は「1業種あたり」10年
ここを誤解したまま準備を始めると、後で足りなくなります。
実務経験10年は、許可を取りたい業種ごとに必要です。内装仕上工事業で10年、大工工事業で10年、という数え方になります。
同じ期間を2つの業種に重ねて数えることは、原則としてできません。したがって2業種を実務経験だけで取ろうとすると、原則20年分の裏付けが要ることになります。
先に決めること
「取れるだけ取っておこう」で業種を増やすと、裏付け書類の量がそのまま倍になります。
今の受注で実際に必要な業種はどれかを先に絞ったほうが、結果的に早く許可が下ります。
証明する材料は「工事の中身」と「在籍」の2系統
実務経験の証明は、次の2つがそろって初めて成立します。片方だけでは通りません。
| 系統 | 何を示すか | 主な資料 |
|---|---|---|
| 工事の中身 | その期間に、その業種の工事を実際にやっていたか | 工事の契約書、注文書・請書、請求書 等(大阪府の手引) |
| 在籍 | その期間、その会社に在籍していたか | 厚生年金の被保険者記録、健康保険被保険者標準報酬決定通知書、住民税特別徴収税額通知書 など |
そのうえで、使用者が 実務経験証明書(様式第九号) に期間と工事内容を記載して証明します。
在籍の側は、現在の常勤性の証明とは別物です。現在その人が営業所に常勤しているかは、また別の書類で見られます。そちらは 大阪府の建設業許可、常勤性は何で証明する? にまとめました。
大阪府が求めるのは、契約書・注文書・請書または請求書
ここは自治体ごとに運用が違うので、正確に押さえてください。
大阪府の「建設業許可の手引き」が実績の確認資料として挙げているのは、「工事の契約書・注文書・請書又は請求書 等」です。このいずれかで、各年の代表となる工事を確認していく運用になっています。
「通帳の原本が必須」は、大阪府のルールではありません
他の自治体では、請求書と入金記録の突合まで求める運用があります。
ただし、大阪府の手引がそれを必須の確認資料として挙げているわけではありません。
他県の解説をそのまま大阪の話として読むと、集めるべき書類の量を誤ります。
そのうえで、入金の記録や見積の内訳明細を用意しておく意味はあります。工事の実在と内容について疑義が生じたとき、それを解消できる材料になるからです。「必須ではないが、あると強い」という位置づけで考えてください。
そろえ方のイメージはこうなります。
“` 注文書(または契約書) → 請求書 [大阪府の確認資料] + 見積の内訳明細・入金の記録 [疑義が出たときの補強] “`
各年の工事の間隔が1年以上空かないようにする
大阪府の手引には、期間の確認について具体的な基準があります。
各年の確認する工事と、その翌年の工事との間隔が1年以上とならないようにするというものです。
つまり、10年のうちに「この年は工事の記録がまったく無い」という年があると、そこで期間が切れてしまいます。年に最低1件は、その業種の工事実績を示せる状態にしておく必要があります。
「一式工事」としか書いていない請求書は使えない
もうひとつの難所がこれです。
請求書の品目欄に 「工事一式」「リフォーム工事一式」 としか書かれていないと、どの業種の工事なのかが判定できません。その1件は、実務経験の期間としてカウントされない可能性があります。
これを救うのが、次の資料です。
- 注文書・請書に工事名称と内容が具体的に書かれているもの
- 見積書の内訳明細(項目ごとの工種が分かるもの)
- 工事の施工体系図・施工写真などの補強資料
「一式」で請求していた期間が長い会社ほど、証明の作業は重くなります。逆に言えば、いまから請求書の書き方を変えておくと、次の業種追加や更新のときに自分を助けることになります。
10年を「連続で」埋める必要がある
実務経験10年=120か月です。この120か月に、工事をしていない空白があってはいけません。
| よくある穴 | どうなるか |
|---|---|
| 工事の記録がまったく無い年がある | そこで期間が切れる(前節の「間隔1年」の基準) |
| 会社を移った時期の書類が無い | 前職分の証明を前職の会社に依頼する必要がある |
| 個人事業だった期間がある | 確定申告書・帳簿・契約書で示す |
前職での経験を使う場合、実務経験証明書に署名・押印するのは「その当時の使用者」です。在籍していた会社が廃業していたり、関係が良くなかったりすると、ここで止まります。
先に確認する1点
前職の経験を使う予定なら、まず前職に証明してもらえるかを確認してください。
書類集めを終えてから断られると、計画そのものが組み直しになります。
特定建設業では、実務経験で立てられない業種がある
一般建設業なら実務経験10年で専任技術者になれますが、特定建設業は別です。
特に、土木・建築・電気・管・鋼構造物・舗装・造園の7業種(指定建設業)については、特定建設業の専任技術者を実務経験で立てることはできません。1級の国家資格者などが必要になります。
なお、解体工事業については、「とび・土工工事業」の技術者を解体の技術者とみなす経過措置が、令和3年6月30日で終了しています。現在は解体工事業としての資格または実務経験が必要です。古い解説を見て「とびがあるから大丈夫」と判断しないでください。
| 区分 | 実務経験10年で専任技術者になれるか |
|---|---|
| 一般建設業 | なれる |
| 特定建設業(指定建設業7業種) | なれない(1級国家資格等が必要) |
| 特定建設業(上記以外) | 一定の指導監督的実務経験などを満たせば道がある |
元請として下請に大きな金額を出す予定があるなら、建設業許可申請(大阪府知事許可・特定建設業) の要件を先に見ておく必要があります。一般で取ってから特定へ切り替える段階で、技術者を立て直せず止まることがあるためです。
大阪府に出すときの費用と期間
| 申請先 | 大阪府 都市整備部 住宅建築局 建築指導室 建築振興課 建設業許可グループ(咲洲庁舎1階) |
| 手数料 | 新規(知事許可)90,000円 / 業種追加・更新 各 50,000円(窓口はPOS納付・キャッシュレス対応) |
| 標準処理期間 | 30日(年末年始の閉庁日・大型連休を除く) |
| 許可の有効期間 | 5年(満了日の3か月前から30日前までに更新申請) |
30日は、書類が受理されてからの審査期間です。実務経験10年の裏付けを集める時間は、この30日には入っていません。書類集めに数か月かかることも珍しくないので、受注の予定から逆算して動いてください。
申請そのものの流れは 建設業許可申請(大阪府知事許可・一般建設業) にまとめています。
500万円未満の工事しかしないなら、急がない選択もある
実務経験の証明にどうしても届かない場合、いったん 許可が要らない範囲で仕事を回す という判断もあります。
1件の請負代金が税込500万円未満(建築一式は1,500万円未満または延べ面積150㎡未満の木造住宅)の工事は、許可がなくても請け負えます。この線引きは 建設業許可がいらない「軽微な工事」の範囲 で整理しました。
ただし、元請が許可業者であることを取引条件にする流れは強まっています。「急がない」は当面の選択肢であって、解決ではありません。
よくある質問
Q. 10年の実務経験に、見習い期間は含められますか
その業種の建設工事に従事していた期間であれば、対象になり得ます。ただし、事務・営業のみの期間や、その業種と関係のない工事の期間は含められません。証明するのは「在籍していた年数」ではなく「その業種の工事に従事した期間」です。
Q. 一人親方として働いていた期間は使えますか
使える場合があります。その場合は、確定申告書・工事の契約書や注文書・請求書と入金記録で、期間と工事内容を示すことになります。法人での在籍証明が使えない分、工事書類の重要度が上がります。
Q. 10年分の書類が全部はそろいません。足りない分はどうなりますか
空白の期間は、原則としてカウントされません。まず何が何か月分あるのかを並べて、120か月に対してどこが欠けているのかを把握してください。とくに、工事と工事の間隔が1年以上空いている箇所がないかを見てください。そのうえで、注文書・請書・取引先への再発行依頼などで埋められるかを検討します。
Q. 資格を取ったほうが早いのではありませんか
多くの場合そうです。たとえば2級の施工管理技士が取れるなら、10年分の書類を集めるより短期間で決着することがあります。書類集めに入る前に、対象者が受験できる資格がないかを必ず確認してください。
Q. 経営業務の管理責任者と専任技術者は、同じ人が兼ねられますか
要件を両方満たしていて、同一の営業所に常勤しているのであれば、兼任できる場合があります。ただしそれぞれ別の要件であり、別々に証明が必要です。経管側の要件は 建設業許可の経営業務管理責任者、要件よりも証明でつまずく にまとめています。
この記事で扱った手続き
あわせて読みたい
- 大阪府の建設業許可、常勤性は何で証明する?経管・専任技術者の確認書類
- 建設業許可の経営業務管理責任者、要件よりも証明でつまずく
- 建設業許可の要件を満たしているか、先に確認する
- 建設業許可がいらない「軽微な工事」の範囲
- 書類の散逸を防ぐ受発注・請求のデジタル化には IT導入補助金・デジタル化の支援制度の使い方 が使える場合があります。
まとめ
- 専任技術者は「資格」「指定学科+短縮実務」「実務経験10年」の3通り。資格が取れるなら資格が最短
- 実務経験10年は業種ごと。2業種を実務経験だけで取るなら原則20年分の裏付けが要る
- 証明は 「工事の中身」+「在籍」 の2系統。大阪府の確認資料は 「工事の契約書・注文書・請書又は請求書 等」
- 各年の工事と翌年の工事の間隔が1年以上空かないこと。記録の無い年があるとそこで切れる
- 「一式工事」としか書いていない請求書は判定できない。注文書・見積内訳で補強する
- 特定建設業の指定建設業7業種は、実務経験では専任技術者を立てられない
- 大阪府知事許可は新規 90,000円・標準処理期間 30日。書類集めの時間はここに入っていない
この記事は制度の内容を整理したものです。個別の経験が実務経験として認められるかは、大阪府 建築振興課 建設業許可グループおよび最新の「建設業許可の手引き」でご確認ください。


